ユース・カルチャーを大胆に取り入れる独自の映画技法と現代へのアイロニカルな応答で『PLASTIC』、『#ミトヤマネ』と話題作を立て続けにリリースし、世界からの注目を一心に集める映画監督・宮崎大祐。そんな宮崎の最新作は、新進気鋭の俳優が数多く輩出される映画美学校アクターズ・コースとのコラボレートによって生まれたSF的青春群像劇。「現実とは?」「幸福とはなにか?」未来を生きる人間の営みを断片的に収集した『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS』が乾いた宇宙に温かな血を巡らせる。(文・島村和秀)
はるか遠い未来。過去の人類のあらゆる体験や感情を追体験できるゲームに没頭する青年のマシーンが故障してしまい••••••。近い未来。環境悪化が進む地球。ミチとイチロウのカップルはふたりで火星への移住を夢見ていたが、イチロウだけ移住許可証が当たってしまい••••••。遠い未来。地球への修学旅行にやってきた学生たちは森の中で過去の人類の痕跡を発見する。そう遠くない未来。火星で暮らすタカラとトーキョー。地球から火星への定期便もとうとう今週打ち切られるという。母が火星にやってくるのをギリギリまで待つタカラと、一度でいいから地球に行ってみたいトーキョーの一日。
タイ料理店で働くミスズは同僚と一夜を過ごしたあと、えも言われぬ匂いに誘われ森の中へと踏み入れる。ハローワークで思ったような仕事が見つからなかったヤタベは気晴らしに森でピクニックをしようと思い立つ。チンピラのミカは舎弟のアキトがドラッグに手を出しているのではないかという疑念を抱いていた。ミカに問いただされ侮辱されたと感じたアキトはミカに復讐しようとする。大学生のスダは退屈な日々に鬱屈をおぼえ、しばし森の一画で一服していた。そんなある日スダは森の中で眠り込んでしまい••••••長年の恋人と大喧嘩をしたモモは怒りに任せ漆黒の森の中に駆け込む。一方、最愛の人にフラれた男・カナエは彼女の気を引くため修行と称し、森の中にたてこもっていた。
この映画の森は私の住む街にもあるのかもしれない、とふと外を散歩でもしてみたくなるような侵食してくる映画でした。私たちの世界には暴力もあれば愛もあれば世界の終わりもあれば悲しい別れも妙な出会いも美味しいご飯もある。それらがただ静かに差し出されていく瞬間瞬間が心地よいものでした。それを支える俳優たちと宮崎監督の協働の充実。不安定に揺れる一輪車から伸びた手と手、指と指が触れ合うショットが忘れ難い。
未知のものに出会った時の驚きと喜び、そしてかすかな恐れ。
この映画は、過去のどんな作品にも似ていない。
創造と想像のコラージュは、理解より感じることを迫ってくる。
時を超え森の中をさまよう者たちが見つけたものは何なのか。
それを確かめるためにもう一度この映画を観ようと思う。
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1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、映画美学校フィクション・コースを経て、フリーの助監督として活動。2011年に初の長編作品『夜が終わる場所』を監督。長編第二作『大和(カリフォルニア)』はThe New York TimesやVARIETY、Hollywood Reporterなどの海外有力メディアに賞賛された。2019年に公開された『VIDEOPHOBIA』は映画芸術の年間ベスト6位に選ばれた。最新作は玉城ティナ主演のデジタル・スリラー『#ミトヤマネ』。
『#ミトヤマネ』(23) 監督
『テン・ストーリーズ』(23) 監修・第1〜3話監督
『PLASTIC』(23) 監督
『MADE IN YAMATO』(21) プロデューサー・第4話監督
『VIDEOPHOBIA』(19) 監督・プロデューサー
『TOURISM』(18) 監督・プロデューサー
『大和(カリフォルニア)』(16) 監督・プロデューサー
『ファイブ・トゥ・ナイン』(15) プロデューサー・日本編監督
『夜が終わる場所』(11) 監督・プロデューサー
映画美学校フィクション・コース第22期修了生。在学中から録音部として自主映画の現場に参加する。 主な録音担当作品に、映画『闇の経絡』(23/監督=及川玲音)、映画『距ててて』(22/監督=加藤紗希)、映画『MADE IN YAMATO』(21/第3話監督=竹内里紗)
京都府出身。映画美学校フィクション・コース第23期修了。 『幸福キロカロリー』(20)『ガンガー様の魚』(21)などを監督。現在は立教大学現代心理学研究科映像身体学専攻にて映画制作中。